飲みかけの缶ビール

眠れない深夜2時、世界は朝に向かってゆっくりと急速に溶け始める。薄汚れた人形は私に話しかける。

「蟹の町へ行かないか」と。

私の本能は危険を察知し、頭の中で警鐘を鳴らす。行ってはいけない、取り返しのつかないことになるぞ、と。まるで床に落として砕けてしまったファンデーションのように。生きている蟹、死んだ蟹、まだ動く蟹、電池切れの蟹…そこで目にするはずだった光景は人形だけが知っている。私はまだ眠れない。そのまま世界は溶けきって乾いた太陽が登り始める。薄汚れた人形がまたこちらを見ている。

「お前には、何もない」

私には、何もない。